親が認知症で実家が売れない?成年後見制度を使った売却の流れと注意点|福井市

親が認知症で実家が売れない?成年後見制度を使った売却の流れと注意点

この記事でわかること

  • 親が認知症などで判断能力が十分でないと、本人名義の不動産は売買契約ができない。子どもが代わりに売ることもできない
  • 売るには、家庭裁判所に申し立てて成年後見人を選んでもらう方法がある。本人が住んでいた(または住む可能性のある)家を売るには、さらに家庭裁判所の許可が必要
  • 申立てから後見人が決まるまでは、2か月以内が約71%、4か月以内が約94%(令和7年・全国)
  • 後見人は家族とは限らない(親族が選ばれたのは約16%)。一度始めると、原則として売却後も続く
  • まだ判断能力があるうちなら、家族信託などの選択肢もある

「母が施設に入り、実家が空き家になった。売ろうとしたら、認知症だと契約できないと言われた」「親名義の家を、子の私が代わりに売れないのか」——福井市でも、こうしたご相談をいただきます。ここでは、親が認知症で実家を売れないときの考え方と、成年後見制度を使った売却の流れを、一般的な制度の範囲で整理します。

結論:まず「いま、判断能力があるか」を確かめる

最初に確かめるのは、「いま、ご本人に判断能力があるかどうか」です。認知症と診断されていても、直ちに売却できないわけではありません。契約するときに、売ることの意味や結果を理解して判断できるかどうかが基準です。状況によって、取れる方法が変わります。

ご本人の状況考えられる進め方
判断能力がしっかりしている本人が売主として売却できる。家族信託・任意後見など、先の備えも契約できる
判断能力が不安(波がある・軽度)医師の診断や、司法書士による意思確認を受けて、売却できるか専門家に判断してもらう。難しければ成年後見(補助・保佐・後見)を検討
判断能力が失われている家庭裁判所に成年後見の申立てをして、選ばれた後見人が売却する(本記事の中心)

判断能力があるかどうかは、不動産会社ではなく、医師や司法書士・弁護士などの専門家が確認する事柄です。迷ったら、早めに専門家へご相談ください。

なぜ、子どもでも親の家を勝手に売れないのか

不動産は、本人の財産です。たとえ親子でも、子どもが親の同意なしに売ることはできません。また、ご本人に契約の意味を判断する力(意思能力)がないときにした契約は、法律上無効になります(民法3条の2)。

  • 委任状で子が代理にすることも、本人に判断能力がなければ、有効な委任ができません
  • 親の代わりに子が署名・押印して契約すると、契約が無効になるだけでなく、法的な責任を問われるおそれがあります
  • 売買の決済(登記)では、司法書士が本人の意思や本人確認を確認します。買主側や不動産会社も、同じように確認します

「家族だから大丈夫」とはならないため、実家の売却が止まってしまいます。そこで用意されているのが成年後見制度です。

成年後見制度とは(法定後見と任意後見)

成年後見制度は、判断能力が十分でない人を、家庭裁判所が選んだ後見人が支える制度です。大きく2つに分かれます。

種類内容
法定後見
(後見・保佐・補助)
すでに判断能力が不十分な人のために、家庭裁判所が後見人等を選ぶ。判断能力の程度に応じて後見・保佐・補助の3つに分かれる
任意後見本人が元気なうちに、将来の後見人を自分で契約して決めておく制度。判断能力が必要なため、すでに低下した後は結べない

すでに認知症が進んでいる場合は、法定後見を使うことになります。裁判所の統計(令和7年)では、後見等が始まる原因の約61%が認知症で、成年後見制度の利用者は全国で約26万人です。決して特別な制度ではありません。

成年後見制度で実家を売る流れ(7ステップ)

  1. 診断書を用意する:かかりつけ医などに、家庭裁判所が定める書式の診断書を作成してもらう
  2. 家庭裁判所に申し立てる:本人の住所地を管轄する家庭裁判所(福井市内の場合は福井家庭裁判所)へ。申立てができるのは、本人、配偶者、四親等内の親族などです
  3. 審理・後見人の選任:家庭裁判所が事情を確認し、後見人を選ぶ。必要な場合のみ、医師による鑑定が行われる
  4. 後見人が就任する:選ばれた後見人が、本人の財産の管理を始める
  5. 売却の準備をする:後見人が不動産会社に査定を依頼し、売却の必要性(施設の費用など)や、価格の根拠を整理する
  6. 居住用不動産の売却の許可を申し立てる:売買契約書(案)や査定書などをつけて、家庭裁判所の許可を求める
  7. 許可後に契約・決済・登記:許可を得てから売買契約を確定し、代金の受取・引渡し・名義変更を行う

売却の許可を得る前に契約を進める場合は、「家庭裁判所の許可が得られることを条件に効力が生じる」契約とする方法が一般的です。進め方は、後見人や司法書士・弁護士、不動産会社で相談しながら決めます。

売却に家庭裁判所の「許可」が必要な理由

成年後見人が、本人の居住用の不動産を売ったり貸したりするには、事前に家庭裁判所の許可が必要です(民法859条の3)。許可なく売却した場合、国税庁の文書回答でも、売却は無効になると示されています。

  • 居住用には、いま住んでいる家だけでなく、施設に入所中で将来住む可能性がある家も含まれると考えられています
  • 許可の判断では、本人の意思、売却の必要性、価格が適正か、本人の心身や生活への影響などが総合的に見られます
認められやすい例認められにくい例
施設の入所費用・医療費など、本人の生活のために必要な資金をつくる売却相続税対策や、家族への財産の移転など、家族の都合が中心の売却
複数の査定などで、価格の根拠が説明できる相場より大きく低い価格や、売却先が不透明な取引

ここで大切なのは、「本人のための売却かどうか」です。本人の財産は、本人のためにだけ使うのが原則です。

かかる費用と期間の目安

家庭裁判所の費用と、後見人への報酬が主なものです。金額はいずれも目安で、事案や裁判所によって変わります。

項目目安
申立ての費用申立手数料800円・登記手数料2,600円(収入印紙)+郵便切手(裁判所により異なる数千円)+医師の診断書の費用
鑑定費用必要な場合のみ。実施されるのは全体の約3.4%で、費用は10万円以下が約86%(令和7年・全国)
後見人への報酬家庭裁判所が決め、本人の財産から支払う。金額は、管理する財産の額や後見人の仕事の内容に応じて変わり、毎月または年単位で継続してかかる。目安は各家庭裁判所が公表している
期間申立てから審判まで、2か月以内が約71%、4か月以内が約94%(令和7年・全国)。売却の許可の審理は別にかかる

費用のうち、申立ての費用や鑑定費用は、申立人が負担するのが原則ですが、本人の財産からの支払いを求める申出ができる場合があります。判断は裁判所が行います。お住まいの市町には、後見人への報酬を助成する制度が用意されている場合もあるため、窓口で確認してみてください。

なお、売却までの期間は、後見人が決まるまで、売却の許可、買主探しと契約・決済と、順に進みます。全体では、余裕をみて計画するのが安心です。

成年後見を使う前に知っておきたい5つの注意点

注意点内容
① 後見人は家族とは限らない申立書に家族を候補者として書けるが、選ぶのは家庭裁判所。令和7年は、親族が選ばれたのは約16%、約84%は親族以外(司法書士・弁護士・社会福祉士など)
② 売却が終わっても続く売却のために始めても、目的を果たせばやめられる制度ではない。原則として本人が亡くなる(または判断能力が回復する)まで続き、報酬も毎月かかる
③ 売却は後見人が決める売る時期・価格・買主は、家族の希望どおりになるとは限らない。家庭裁判所の許可も必要
④ 時間がかかる後見人の選任と、売却の許可の2段階。施設の費用の支払いが先行する場合は、早めの準備が必要
⑤ 財産は本人のためだけに使う売却代金は、家族への贈与や援助には使えない。本人の生活や医療・介護のために管理される
成年後見人等に選ばれた人の内訳。司法書士28.0%、弁護士20.8%、社会福祉士17.0%、親族16.4%、その他17.7%(令和7年・全国)

「実家を売るためだけに」後見制度を使うと、思っていた以上に長く続く点が、最も誤解されやすい部分です。制度を使うかどうかは、売却の必要性が高く、ほかの方法がないときに慎重に判断するのがおすすめです。

成年後見の申立ての動機。預貯金等の管理・解約93.4%、身上保護74.2%、介護保険契約45.7%、不動産の処分36.3%(複数回答、令和7年・全国)

申立ての動機として、「不動産の処分」は全体の約36%(令和7年)にのぼります。実家や自宅の売却は、後見を始める代表的な理由のひとつです。

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福井市で実家の売却を進めるときのポイント

  • まず専門家に相談する:成年後見の申立ては、司法書士・弁護士が専門です。福祉面の相談は、お住まいの地域包括支援センターや社会福祉協議会で受け付けています
  • 不動産会社は、売却の段取りを担当する:成年後見の手続そのものは行いませんが、後見人や司法書士・弁護士と連携して、査定・売却活動・契約を進められます
  • 査定は複数取り、根拠を残す:家庭裁判所が価格の妥当性を見るため、査定書の根拠(近隣の成約事例など)が大切です。仲介による売却の流れも参考にしてください
  • 空き家の管理を忘れない:売却までの間も、家は傷みます。雪・水回り・固定資産税の負担は空き家管理の記事もご覧ください

判断能力があるうちなら、ほかの選択肢もある

ご本人に判断能力が残っているうちなら、成年後見を使わずに済む方法もあります。

相続が起きたあとに共有名義などで困る場合は、共有名義の売却の実務もご参照ください。

よくある質問

Q. 軽度の認知症なら、本人が売却できますか?

認知症という診断だけで、売却できないと決まるわけではありません。契約するときに、売ることの意味や結果を理解して判断できるかがポイントです。その判断は医師や司法書士・弁護士など専門家が行います。判断が難しい場合は、成年後見制度(補助・保佐・後見)を検討します。

Q. 子どもが、親の代わりに売却することはできませんか?

できません。親に判断能力がなければ、委任状も有効にならないため、家庭裁判所が選んだ成年後見人が売却する形になります。

Q. 後見人に、家族がなることはできますか?

申立ての際に、家族を候補者として書くことはできますが、最終的に選ぶのは家庭裁判所です。令和7年は、親族が選ばれたのは約16%で、約84%は司法書士・弁護士・社会福祉士などの親族以外でした。

Q. 売却が終わったら、後見をやめられますか?

原則として、売却が終わっても後見は続きます。本人が亡くなる、または判断能力が回復するなどの事情がなければ、終了しないのが一般的です。このため、制度を使う前に、期間と報酬も含めて検討しておくことが大切です。

Q. 後見人への報酬が払えない場合は?

報酬は、本人の財産から支払われます。お住まいの市町によっては、後見人への報酬を助成する制度がある場合があります。詳しくは、市町の窓口(地域包括支援センターなど)でご確認ください。

まとめ

  • 親が認知症で判断能力が十分でないと、子でも代わりに売ることはできない。成年後見制度で選ばれた後見人が売る
  • 本人の居住用の不動産の売却には、家庭裁判所の許可が必要。「本人のため」の売却かどうかが基準
  • 後見人が決まるまで、2か月以内が約71%。ただし、家族が後見人になれるとは限らず、売却後も続く
  • 判断能力が残っているなら、家族信託・任意後見・生前売却などの選択肢もある
  • 迷ったら、司法書士・弁護士・地域包括支援センターなどの専門家に早めに相談する

なお、本記事は一般的な情報提供であり、個別の法的判断ではありません。成年後見の申立て・売却の許可などの個別の判断は、弁護士・司法書士などの専門家にご確認ください。出典:最高裁判所事務総局家庭局「成年後見関係事件の概況(令和7年1月~12月)」、各家庭裁判所の公表資料。

春山不動産 代表者 間 麗

福井市の不動産売却のご相談

この記事を書いた人:代表者 間 麗 (はざま あきら)

福井市の「春山不動産」代表。不動産業界歴20年の知見を活かし、不動産売買・賃貸の仲介から、管理、コンサルティング、相続・空き家・建物解体、住宅ローンのご相談まで、一人ひとりに寄り添い手厚くサポートいたします。

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